解散総選挙国家のコーポレートガバナンス 解散総選挙国家のコーポレートガバナンス
解散は正当か
 自公連立与党の歴史的大勝利に終わった総選挙だったが、選挙後の調査ではかなりのひとが「与党の獲得議席が多すぎて意外だ」という印象をもっているようだ。小選挙区主体の衆院選挙制度のなせる技であるが、有権者の大半はこの点のイメージが具体的でなかった傾向がある。新制度になって約10年、4回目の選挙にしてはじめてこの制度の本質がよくわかる結果がもたらされたといえる。今回の結果は与党側のこの制度の本質に対する深い理解に基づいた巧みな選挙戦略が奏功したという面が強い。それに対して失礼ながら野党側の大半は形式的、単純な見方しかなしえていないように思える。制度をよりよく知る者が政権を制す−「知の利」は与党側にあった。
 今回の選挙はその結果の如何とは別に投票率という点でも画期的であった。長期低迷傾向にあった衆院選挙投票率が小選挙区で67.51%を記録し、前回より7.65%も増加した。増加の主な原因は郵政民営化法案反対派をめぐる与党の派手な「劇場型」といわれた選挙戦術、いくつかの新党の設立などによる有権者の関心の高まりによるものが大半であろうが、期日前投票制度の導入など地道な制度改善による部分もかなり作用していると思う。投票率増加は最近はほとんど野党側有利に作用したが、今回は逆に与党側有利に働いたようだ。いずれの結果をもたらすにせよ民主主義の「天の声」は投票率の増加によってより鮮明にもたらされるのだ。


 わが国の衆院選挙制度は長い間「中選挙区」とよばれる、ひとつの選挙区から数名(標準的には3名)を選ぶものであった。細川連立内閣によって現在の小選挙区比例代表並立制と呼ばれる制度に改正されたのであるが、その際なぜ小選挙区が300になったのか、なぜ比例区が200(現在は180)なのか、どういう経緯でそうなったのか意外と知られていない。そもそもなぜ中選挙区はダメで小選挙区にしたのかすらほとんどの人が忘れているのが実状ではないだろうか。
 旧中選挙区は全国130前後の選挙区で争われた。総定数は時代によって変遷するが大体500前後であるから過半数を制するには1選挙区平均2名程度以上当選させないと単独で政権党にはなりえない。いわゆる55年体制化で政権党であり続けた自民党は、ひとつの選挙区で複数の当選者を生み出すため「派閥連合政党」と化し、一方の最大野党社会党(現社民党)は各選挙区平均1人前後しか当選させる力がなく万年野党と化していった。旧社会党は仮に候補者全員が当選しても単独政権をとりえないという状態が長く続いたのだ。
 いわゆる派閥政治を解消しつつ、有権者の意志をビビッドに反映して「政権交代が容易になされうる選挙制度」というコンセプトで構想された小選挙区制度であるが、約500の単純小選挙区にすると有権者の少しの投票傾向の変化が劇的な議席変動をもたらしすぎる。ある程度安定的要素も加味する必要があるという配慮から比例代表制度との抱き合わせが模索され、総議席500で250対250とする並立案、獲得議席を比例得票で割り振り、当選者を小選挙区当選者から順に割り付けていくドイツ方式の「併用制」と呼ばれる案などが検討された。(後者は小選挙区当選者数が政党の比例獲得議席数を超過した場合に総定数を増やす必要があるという致命的難点があった。総定数512を超えると国会議事堂の改築または新築が必要なのだ。)
 結局結果的に当時の各政党の現有議席とほぼ同じ結果になるとのシミュレーションが決め手となって300対200の並立制となったわけであるが、皮肉なことに劇的な政権交代は中選挙区制最後の選挙によって細川政権が誕生して以来、新制度化では一度も起こっていない。今回の与党の劇的勝利はまさに新制度のねらいとしている効果を体現したものであり、本質的に制度制定当時想定していた 「政権交代」と同様の現象であるといえよう。小選挙区主体の選挙制度は与野党双方にとって「両刃の剣」なのだ。
 そしてこの制度改正の真の本質が、ピーク時1対5程度にまで拡大し、定数増減により若干緩和されてはいたが、もはやそれ以上放置できない状態にあった「一票の格差」の是正にあったと評価できることは前述のとおりである。この点は度重なった違憲判決を待つまでもなく憲法上の基本的人権にかかわる由々しい問題であった。小選挙区の一括導入に伴う選挙区割りの変更を通じて、この格差をかなりの程度是正したのが現行制度だ。一票の格差を是正していくと、これからも(副次的効果として)結果的に人口が密集している都市部に定数配分がシフトする。都市部を制する政党が政権政党となりやすいという制度的基盤はこのときできあがったのだ。今回の選挙はこの点も与野党双方にとって「両刃の剣」となった。今後の各党の政策動向、選挙戦術などを計るうえで大変興味深い。
次へ>>


[1][2][3][4][ホームに戻る]