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コーポレートガバナンス協会理事長・野村隆の明解講義国の出先機関は原則廃止を〜補完性原理による分権改革の実現

掲載日:平成20年08月13日

以下本文

1.群雄割拠の根城

国の地方出先機関の統廃合に関連する議論が盛んになってきた。背景には社会保険庁の出先である社会保険事務所を舞台とした様々な問題、いわゆる官製談合の問題や道路目的財源の使途に関連した国土交通省の出先機関の問題その他様々な「不祥事」が国の地方出先機関を主たる舞台として起こっていることが挙げられよう。出先機関は文字通り出先であるから行政の現場を担っており、必然的に批判の矢面にも立たざるを得ない宿命にある。

国の地方出先機関とは典型的には各省庁の所掌事務を分掌する地方支分部局(国家行政組織法)を指すが地方自治法上は「国の地方行政機関(駐在機関を含む。)」としてもう少し広く捉えている。要するに国の仕事を直接各地域で実施するために設けられている各種機関を指すのだが、そもそもこれらの機関は原則として国会の承認がなければ設置してはならないことになっていることは意外と知られていない(地方自治法第156条第4項)。

国の仕事を地方の現場において地方自治体の意向とは無関係に遂行しうる地方出先機関の仕組みはそれ自体各省庁の地方群雄割拠をもたらし、地方自治の発展を阻害する性質がある。地方主導型の分権改革を本気で進めようとするのであれば国の地方出先機関は単なる整理合理化にとどまらず、真に中央政府としての国の地方活動として必要不可欠なもの以外は原則廃止すべきものなのだ。

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2.苦難の歴史

地方出先機関は戦前も存在したが、現在のように多種多様の機関が設置されることになったのは戦後のGHQ主導による民主化改革の結果である。すなわち新憲法で地方自治の概念を導入し、都道府県を完全自治体化したことなどに伴って国の仕事と地方自治体の仕事を峻別する必要が生じた。その際空間的には各地方で行われる仕事のうちかなりの部分が地方自治体ではなく国の仕事と位置付けられた経緯がある。

さらに戦後復興とそれに続く高度成長期を通じて多様化する行政需要を受け、国の各省庁にとって地方自治体と関係なく自ら迅速に行政目的を達成する端的な手段として多用されたのが地方出先機関の手法である。地方自治体の意向を無視した中央政府主導型の行政手法の拡充であり、地方自治にとっては苦難の歴史の始まりである。

地方出先機関の乱立がいかに地方自治を阻害するものであるかは戦後改革当初から認識されており、その進展に対する警鐘は常に鳴らされていた。次の参議院決議(昭和23年)をお読みいただくとよくわかるはずだ。しかし時代はそのような声を掻き消し中央政府主導型の高度経済成長へと突き進んで行ったのだ。一部の有力政治家から知事市町村長などの公選首長を「田舎のアパートの管理人」に喩えるような暴論が出たのもこのころである。

地方出先機関整理に関する決議 (昭和23年6月23日参議院本会議)
新憲法の精神に則り地方自治の趣旨を徹底するため、中央各省の行政事務を大幅に地方公共団体に移譲又は委任することの必要なるは今更多言を要しない。然るに政府が行政事務の統一処理にしや口して、夫々直轄の特別行政機関を設置し、ために機構の複雑化を来し、地方行政の民主化を阻害しつつあることは、甚だ遺憾とする処である。昨年地方自治法を改正して、出先機関の設置について、国会の承認を要することに改めた所以のものは、ひつきようこれら出先機関の濫設が、地方自治の伸展と行政の運用上少なからぬ弊害があるために、これを是正せんとしたものに外ならない。
今や、全国の与論は、一日も速かに、その徹底的整理の断行を要望し、政府またその必要を痛感して、度々これが実現を声明するに拘らず、遷延今に至るもその具体案を国会に提出せざるのみならず、今期国会に提出せる国家行政組織法案及び各省設置法案等によれば、政府に既存の出先機関に関し何等整理の誠意の認むべきものがない。政府は宜しく英断を以て、出先機関の整理方針を再検討し、速かに国会にその徹底的整理案を提出すべきである。
右決議する。

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3.最後の砦

国が空間としての地方において行政目的を達成する手法は出先機関の他にもある。戦後用いられた典型的な仕組みは国家公務員を地方自治体の現場に配属して中央統制のもとに仕事をさせる地方事務官制度、地方の公選による首長を特定の仕事に関して国の機関とみなして指揮命令下におく機関委任事務制度であるが、これらは長年の議論を経て地方分権の一環として廃止された。事務の大半は現行の法定受託事務として継承されているが、以前のような主従関係的なものではなく対等当事者の委託受託関係に制度上は改善されている。

しかしこれらは本格的な地方分権の観点からはいわば外堀のようなもので、中央集権システムを支える強固な内堀と本丸が厳然として残っている。それが巨額の国庫補助金と多様な地方出先機関である。国が地方をコントロールする最後の拠り所は巨額の予算であり、それらを直接ハンドリングしているのが出先機関である。従って出先機関の廃止はそれだけで単独に議論してもあまり有効ではない。出先機関の存在を必要としてきた国と地方の行財政権力構造を根本から議論して、国家全体としての結論を出す必要がある。

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4.補完性原理

地方出先機関の問題は現在国が出先機関を通じて行っている仕事を単純に地方自治体に移せば全て解決するというものではない。仕事の性質があくまでも国の遂行すべき仕事なのであればそれを地方自治体において全国的に統制しながら行うのはあらたに膨大な法定受託事務などを生み出すことになり、国地方双方のエネルギー消失が甚だしくなり必ずしも得策ではない。かといって第二の機関委任事務制度を創設するのはどう考えても時代に逆行している。

写真はイメージ問題の本質は仕事の位置付けそのものだ。現在国が行っている仕事は本当に中央政府としての国が行わなければならないものなのか、今一度よく吟味してみる必要がある。平成11年に新設された地方自治法第1条の2の国と地方の役割分担の考え方に沿った事務権限の配分が本当に適正になされているのか、その判断結果に応じて国と地方の事務権限配分を徹底的に見直す必要がある。

その際の解釈原理として最も重視すべきなのがEUの基本原則にも採用されている「補完性原理」であろう。住民に身近な政府がより多くの仕事をすべきだとするこの原則はヨーロッパのみにとどまらず、世界中で採用されつつある。中央政府と地方政府の関係を律する原則としては長年の人類社会の叡智が凝集している考え方だといえよう。より多くの人々に幸福と満足を供給しうる公共システムはどのようなものか?有力な解答が提示されているのだ。

(地方自治法抜粋)

【地方公共団体の役割、国と地方公共団体の役割分担の原則等】

第1条の2

  1. 地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。
  2. 国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。

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5.さいごに

国民住民にとってはある仕事が国でなされようと地方でなされようと、結果的に正確性迅速性効率性などの諸条件がみたされれば大差ない問題である。国も地方も本質的に同様の公共的業務を行っているから当然のことであるが、残念なことに深刻な不祥事が多発している点でも両者は共通している。両者を跨る「親方日の丸」的体質が抜本的に改善されない限り国の事務権限を地方に移譲すべしという意見の説得力は乏しい。この観点からみると国か地方かは単なるコップの中の争いでしかない。

今後地方主導型の分権的国づくりをめざすのであれば、地方は更なる市町村広域合併、府県合併(道州制)なども積極的に展開し、国民住民の負託に応えるための体質転換にまい進しなければならない。器を新しくすることは中身を新しくすることにつながりやすいからだ。幸い地方の方が国民住民に近い身近な政府であり国ほど巨大ではないので、我々の民主的コントロールがより迅速に反映しやすいのは地方自治体すなわち地方政府である。国民住民が主役を演じうる分権型社会を本当に実現していけるか否かはひとえに地方政府の力量にかかっているといっても過言ではないのだ。

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以上本文

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著者紹介

野村隆
のむらたかし
1953年兵庫県生まれ。東京大学法学部卒業後、自治省(現総務省)入省。その後、外務省、国土省、郵政省、千葉県庁、岐阜県庁、熊本県庁、三重県庁などを経験。自治省企画官などを経て、2000年より徳島文理大学教授。大学院で地方財政制度論、組織経営統治論、電子政府論を担当している。著書に「連邦制究極の地方分権」(ぎょうせい)、「自治体国際化戦略データファイル」(ぎょうせい)など。
平成18年4月よりコーポレートガバナンス協会理事長に就任。

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